■ 短期的にJPX400入替関連、中期的には中国問題に左右される展開へ
株式市場は、8月第二週から、新しい局面に入るだろう。
米国の利上げ、ギリシャ問題、の二つが最重要課題から一歩後退し、中国の景気後退が、ワントップとして課題の中心になりつつある。
また、8月第二週からは、7日発表された、JPX400銘柄の入れ替えに伴う、ETFや他の投資信託などの大規模な売買が行われる。
■ 米国利上げを織り込み、リーマンショックの完全清算に向かう市場
8月の雇用統計発表が終ったことで、米国利上げのタイミングについては、それがどのタイミングになろうと、すべての選択肢が、市場ではほぼ織り込まれた、と言える。
もちろん、そのタイミングが明確になったという意味ではない。
しかし、9月に利上げ、というシナリオが、投資家にかなりの確率で認識されたといえる。もし、それが延期になったとしても、極めて短期的な投機的売買以外には、それが材料として扱われることは難しくなった。
雇用統計の「まずまずの数字」(雇用者数21万5000人:予想は22万3000人だった)を見て、NYダウは、一時100$以上下落したものの、最終的には−46$まで戻した。
こういった動きによって、FOMCによる米国利上げに対する耐性は、市場にはすでにできていると見られる。つまり、実際に、それが発表になったときには、「悪材料の出尽くし」として株価は逆に上昇するだろう。
米国の利上げは、リーマンショックの完全な清算を意味する。2008年のリーマンショック以降、GM破綻、オバマ大統領の就任、そして量的金融緩和の段階的な実行と、進んできた米国経済が、米国債の格下げやテロとの戦い、という困難を経験しながら、辿りついた、米国にとって一つの成功例となる。そして米国市場の動向は、利上げによって、そこから相場の性質には変化が求められるだろう。
■ 3つの問題が肥大する中国問題
一方で中国の景気減速は、三つの懸念を巻き込みながら進んでいる。一つは、上海市場の下落、もう一つは、中国景気の減速による、金、原油などの価格下落だ。さらに、市場関係者の間では、中国政府発表の数値がねつ造である、という認識を持つ人も増えている。
これらの問題は、深刻で影響が甚大だ。
上海市場は、政策的な「売り規制」によって、なんとか保っている。しかし、中国の機関投資家は、株式市場で膨らむ損失を黙って見ている代わりに、株式市場と連動性が高い、銅などの商品市場で空売りを繰り返し、ヘッジをしている、と言われる。
金先物は、先週までのところ1090$近辺を推移し、崩壊防護ラインの1000$を割れていないが、原油価格(WTI)は、防護ラインの45$を割れ、先週は44$をも割ってしまった。
このことは株式市場にも、やがて影響を及ぼすだろう。
さらに嫌な感じなのは、中国の経済指標について、「ねつ造」だという内容を、ロイターが、専門家の話として報道し始めたことだ。
現在、中国の実質GDP成長率は7%台(2014年は7.36%)だが、これが実は2%台、あるいは悪くすると1%台なのかもしれない、という。
このことは、実は、ファンドマネージャーらの間で、これまでも噂をされてきた。しかしこれまでは、「中国という国が、巨大であるにも関わらず」、「他の先進国と同様あるいはそれ以上の早さで発表されてきたこと」、また、「それを修正しないこと」、などが不自然だ、などという、いわゆる状況証拠しかなかった。しかし、ロイター報道で、実際の成長率の目処まで掲載されたことで、問題は、より表面化してくる懸念がある。
この問題が表面化すればするほど、中国政府がいかに「心配いらない」メッセージを出したところで、それ自体が怪しく思えてくる。つまり、政策としての「アナウンスメント効果」を失う。一国の政府や中央銀行が、「アナウンスメント効果」を失うと、いずれ市場の投機筋によって、市場は混乱に陥ることになる。
中国にはすでにその予兆があり、それが故に、自由主義国家では考えづらい市場規制が始まっている。
「心配いらないから、株を売らなくても大丈夫」と言っても「嘘だろう」と言われるので、「売るのは違法ね」と言い始めたわけだ。
そしてなにより、中国人民銀行は先週、今後数か月間、中国経済は逆風に見舞われる可能性がある、という認識を示したという。
■ 東京市場も新たな局面に
70周年談話が終了する頃から、東京市場も本格的に次の局面に向かうだろう。
まず、先週発表されたJPX400の銘柄入れ替えを伴う売買が盛んに行われることになる。JPX400と連動することを目標にしている投資信託やETFが、入替を進めるからだ。
新たに採用されたミクシィやクックパッド、綜合警備保障、大王製紙、トプコン、オリンパス、ヤオコー、東京建物、南海電鉄、などの銘柄群には買い圧力が加わる。
一方で、除外された銘柄、日清製粉グループ、昭和電工、日本触媒、出光興産、日本電気硝子、SANKYO、コナミ、ヤマダ電機、王将フーズなどは売り圧力にさらされる。
これらの値動きは一方的で、情報の伝達は「効率的」なので、あまり売買益を稼ぐチャンスは無いかもしれない。
しかし、ねらい目は、すでに、除外されることがわかっていた銘柄、例えば、東芝、東芝プラント、日本マクドナルド、などの銘柄は、すでに除外を見越して下落している部分もあるので、逆に「悪材料出尽くし」で、反発する可能性もある。
デイトレーダーにとっては、ボラティリティを活かして稼ぐチャンスかもしれない。また、JPX400に採用されるかもしれない、とされていて、されなかった東電のような銘柄も、デイトレの対象になりやすい。
このJPX400の入れ替えの後に、新たな局面が見えてくるだろう。そしてそれこそが重要な変化だ。
注目される点の一つは、
「中国景気の減速により、原油価格が下落する、といった場合に、原油価格の低下がメリットとなる国の一つが日本である」ということ
もう一つは、
「米国利上げによってドル高になれば、そのメリットが大きい国の一つが日本である」ということ。
以上の二つだ。
つまり、国際的な投資家にとって、原油価格の下落(中国景気の後退)や、米国利上げに対する「ディフェンシブな投資先」として、東京株式市場が性格付けられている可能性がある。
さらに、中国への信頼性の低下が、相対的な東京市場の価値を上昇させてもいる。
先週あたりから、NY市場と東京市場の連動性が薄まっている(NYが下がっても東京が上がる)、という指摘が聞かれるが、その背景には、これらの要因がある。
■ WTI下落で仕込める日経平均連動もの
日経平均株価の動きは、下値は切りあがり、上値が切り下がる、いわゆる「三角持合い」を形成し、8月10日の週には、その持合いが頂点にくる。
したがって、ここからは上下に新たな水準へ向かう展開になりやすい。
果たして下へいくのか、上にいくのか。
いかにディフェンシブだといっても、原油価格がこの水準からさらに下落すれば、やはり日経平均は下へ向かうだろう。ただし、その場合でも、ここで書いた理由により、下値は限定的だと思われる。
WTIの動向によって、20000円程度まで調整することも考えらえるが、その後は、上昇の準備に入る可能性が高い。
つまり一旦、トン、と下へ抜けその後、上昇トレンドラインを描くのが、基本的な見込みと思う。
いつもより変動性が薄れてきた日経平均だが、この間が、最も仕込みやすい状況となるだろう。
JST特別アドバイザー 堀